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INPREPARATION

準備中の作品


壮絶な戦いの中から、城を抜け出した二人の若武者がいた。
しかも、胸にはしっかり赤ん坊を抱いて
 彼等は決して逃げたのではない。
 明日に向かって、大きな一歩を踏み出したのである。



伝説・八王子城物語
まつりの朝に
(仮題)

原作・脚本 斎藤耕一・大山幸英
八王子城址にて@
八王子城址にてA
製作意図

八王子城は、昨年その遺跡が「日本百名城」の一つに指定されたが、この城で平和を志向しながらも自ら命を落とし、未来への礎となった多くの先人への餞(はなむけ)として、私たちは、単なる勝った負けたの戦国談義ではなく、また偉人の手柄話でもなく、一介の庶民たちの眼で捉え体で感じた戦国時代というものを、現代の私の想像で再現し、今に語り継ぎたい人間の幸福とは何かを探りたいと思う。しかし映画としての形態はあくまで娯楽映画である。



あらすじ

合戦の跡を荒らしては、巾着や刀などを盗んでいた悪ガキが二人、滝山村に住む鍛冶屋と農家の倅だが、長じてとんでもない夢を持つ。世はまさに下克上時代、村で見た人形芝居で織田信長の本能寺の乱を知り、俺たちもサムライになって天下を取ろうと企む。度重なる戦火、天災、年貢で苦労する親たちを見て、こんな生活は真っ平とばかり、怒鳴る親父や家族を後にして、家を飛び出す。合戦場で拾った衣装や刀を身に付け若武者気取り、颯爽と天下取りの旅に出た。
しかし世の中そんなに甘いものじゃない。最初は小手調べと乗り込んだ寺の賭場で、「陣狩りの徳次郎」という流れ者に出会い、こっぴどい目に合わされる。
この男、海の見える国から流れて来た浪人で自らを「陣狩り」と名乗る。「陣狩り」とは、この時代に流行った職業で、敵味方の関係なく、合戦があれば金次第でどちらにでも転ぶ日雇い用心棒の事で、腕ップシも強く奸智にも長けている。若い駆け出しの二人なんてまるで歯の立つ相手ではなかった。
この物語の導入部ではこの三人が出会い意気投合、兄弟分の関係で結束し、この乱世で名を売り、やがては天下を乗っ取ろうと企むところから始まる。

貢ぎ物の仲介で荒稼ぎする豪族、ニセ金で市場を荒らす賭場荒らし、金貸しで村人を苦しめる豪商等、彼等が狙う目標には事欠かない時代ではあるが、ただ盗むだけでは単なる泥棒、金は儲かるが天下は取れない。

ふとした事から青梅の百姓で、実は裏宿の七兵ェ衛という足の早い泥棒から、義賊の哲学を聞かされた三人は、どうせやるなら世の中を動かすような事をやれと言われ、言われてみればその通り、天下を取るには、天下を動かしている奴を狙うのが本筋、小銭集めは青梅の七兵ェ衛にまかせ、俺たちは同じ泥棒でも目いっぱいの大物を狙おうと相談する。そこで一番手っ取り早いのは近ごろ巷で評判の城の引越し、滝山城から新しく築城している八王子城への引っ越し行列が三日に一度は滝山を下る。「それこそ相手は殿様、金目の物だってザクザクあるし、間違っても人質さえ取れば俺たちの言い分が通る」「言い分?」「俺たちをサムライに雇えって言うんだ、今北条勢は威勢のいいのは皆んな小田原に取られてサムライ不足、俺たちは高く売れるぜ」

しかしその計画は見事に失敗、相手は足軽と女子供だけと甘く見たのが運のつき、いやその足軽たちの強いこと、三人はようやく人質の女を浚い、その女を盾に逃げる。結局彼等が手に入れた物は、金目の物は何もなく、見るからに質素な足軽女一人だけである。「畜生!北条の奴等に騙された。こんな足軽の女を立派な駕籠に乗せやがって。よし、今度狙うのは八王子城だ、憶えてやがれ」と、徳次郎。若い二人は慣れない手つきで女の体を担ぎ、細い山道を懸命に登る。



この物語の中段は、人質になった「花」という足軽の女と、徳次郎たちの三人の偽サムライとの隠れ家での共同生活が面白可笑しく展開させる。
危険にさらされた隠れ家生活ではあるが、女が一人増えたことで男たちの様子も微妙に変化してくる。汚れた泥を落とすと、この女の顔も満更ではない。「いいか、俺たちが一番気をつけなくちゃいけないのが女だ。例え足軽女でも俺たちの中で誰かが花に手を出せば、たちまち仲間割れで血の雨が降る。これでもこの女は敵が攻めて来た時の大事な人質だ、それまでは掃除、洗濯、飯の支度。やらせる事は山程ある。裏切った奴は俺が叩っきるから、よく覚えておけ!」徳次郎が厳しく二人に云う。



日が経つにつれ、花という女の存在が次第に際立ってくる。
「この女は只者じゃないぞ」密かに三人の男が顔を見合わせる。まず字が読める。いや書くことも出来る。行儀作法が正しく、何よりも男たちを驚かせたのは武道が出来る事である。始めはからかったつもりが、次第にそれも本気になる。長い竹竿を持って構えた花の前に、男たちは木刀で打ち込むことも出来ない。
「あんたたち、今のままじゃ百年たっても本物のサムライにはなれないわ。いくら強くてもサムライはそれだけじゃない」。ある日、男たちは花の言葉に愕然とする。「何をこの女!足軽の娘のクセに偉そうなことを云いやがって」「わたしが今日から本物のサムライの作法を教えます」「やって貰おうじゃないか、なあ皆んな…」「それじゃ今日からあなたたちの仕事に、わたしを一緒に連れていきなさい」毅然とした花に誰も反論は出来ない。
荒くれ男たちの中にあって女は、時に毅然と、時に艶かしく、また独特の倫理感を持って男たちに接した。「裏宿の七兵ェ」を見習い、義賊として振る舞う男たちに、狙う相手、救う相手の区別にも一つの信念も教え、今までの男たちの目的なき戦いにも一つ意識を目覚めさせた。武士の道は蛮勇ではない、義務と情けと礼儀である。真の人の道、それを目ざすのが本当のサムライであると説いた。
女のサムライ講座は隠れ家だけではない。盗みを働く実践現場でも熱心に行われる。盗みに入った豪族の家で、追ってに囲まれた茶室の中で茶道を習わされ、また馬が踏みにじった野の花を痛み、村人たちと折れた花を起こす。
しかも男たちは、盗んだ金品を必ず貧しい村人たちに配る事も忘れず、村人の間では次第に人気が高まり、中には神様のように思う人もいた。
しかしその反面、人気が上がれば上がる程、彼等の追い詰める役人の追及も厳しくなったのは当然である。

そんなある夜、若い二人が裏山で思いもかけない光景を見てしまう。
何と仲間に固い誓いをさせた徳次郎が、事もあろうに花と抱き合っていたのである。「あっ!徳兄き、裏切りゃがって。よーし、俺が叩っ切ってやる」
「いや、何かの間違いだ、ありゃ案山子だろう」
一人が血相を変え、一人が無理やりに間違えを強調するのだった。
そしてその翌朝、花の姿が隠れ家から消えた。「あッ! 人質が逃げた」
一通の置き手紙があり、「長い間ありがとうございました。わたしはお城に戻ります。皆さんもどうか立派に武士になってください。私も信じています。花」徳次郎だけではなく、若い二人も茫然とする。



ここから物語の後半の舞台は、八王子城になる。
八王子城の築城は、最後の段階にきているが、連日のように精鋭の兵士たちが北条家の本城小田原城目ざし、その守護に出陣していく。残された女、子供、僧兵、労務者たちがそれを見送る。「何だよ!これじゃせっかく八王子城が出来ても守れねえじゃねえか、どうするんだよ。殿様!」行列に向かってわめいているのは、なんと徳次郎たち三人。まるで犬の遠吠えである。突然その前に、高貴な衣装に身を包んだ女、花が小さな赤子を抱いて現れた。花である。
「あっ、花!」「残された私たち皆で城を守ります。それで貴方たちにも城へ来て貰ったのです。貴方たちは今日から立派な本物のサムライです。」
優しく微笑む花、それは隠れ家にいた足軽の娘ではない。城内師範守谷幾蔵の娘、「守谷はな」である。「そうだったのか・・・ それで、この赤ちゃんは?」と、徳次郎が恐る恐る尋ねる。「私の子です」と花が平然と答える。「私の子って・・・で、父親、お父さんは、誰?」「・・・・・・」花は静かに笑うだけである。「この子も私も、きっとこの城と同じ運命を辿ると思います」と、花は赤子の顔に頬を寄せた。



八王子城を舞台に、多彩な人物たちの感動の物語。意表をつくドラマ展開は、やがて数万の敵に包囲されるクライマックスへ。
戦うべきか、降伏すべきか、はたまた自害か。城に残された彼等に決断が迫られる。侍として成長した男たち、花、赤子は −−−−−

天正十八年(1590)。全国制覇目前の豊臣支軍の前田利家、上杉景勝軍数万の兵の猛攻で八王子城は落城する。歴史に残る惨劇で、豊臣勢は城を死守する残留軍の降伏を認めず、一人残らず全滅させたと云われているが、何人かの老人、労務者たちに交じって小さな赤子が一人、兵士に抱かれて逃れたという噂もあった。
何れにしても、この八王子城の落城が見せしめで、小田原城で抵抗していた北条軍も降伏、ここに長い長い戦国時代も遂に幕が降ろされた。

そして武蔵の国にも、凡そ百年ぶりに平和が訪れる。
戦いとは、平和とは、城下町の未来は、村人たちの生活は、人々の考える事は山程ある。「でも考える前に、とにかく祭り道具の埃でも払うベえ。祭りなんて本当に何年ぶりだろう」城下町の古老が感慨深く仲間に呟き、村の子供たちは生まれて初めて迎える「まつりの朝」への期待に、嬉しそうにはしゃいでいた。

八王子郷土資料館館長と